進化医学

ヒト(ホモ・サピエンス)の特性と現代人の健康

ヒトは狩猟採取に適応するように進化した

我々の祖先は約500万年前にチンパンジーから枝分かれしてから、独自の進化を遂げてきました。他の生物と異なる点は、細かな点はいくつもありますが大まかな特徴としては以下が挙げられます。


  1. 常時二足歩行ができるようになりました。それにより前足は手/腕として道具を使用することが出来るようになり、また火を扱えるようになりました。視点が高くなり周囲を見渡しやすくなったことや、四つん這い状態と比べ直射日光が当たる面積が小さくなり、晴天下で体温が上がりにくくなったことは副次的なメリットと言えます。
  2. 汗腺が発達し、体毛が薄くなりました。上昇した体温を効率よく下げられるようになりました。
  3. 脳が発達し、それに伴い大きな頭蓋骨を持つようになりました。脳の発達も道具や火を扱うのに必要でした。
  4. 余剰エネルギーを効率よく脂肪として体内に蓄えることができるようになりました。発達した脳を維持するには常に膨大なカロリーが必要(身体全体の消費カロリーの約20%が脳で消費されています。これは心臓の1日の消費カロリーのほぼ倍にあたります)ですが、皮下脂肪・内臓脂肪としてエネルギーを貯蔵することで飢餓状態でも脳の機能を維持することができます。また、頻繁に食事をしなくても長時間狩りをする(動く)ことが出来るようになりました。狩りの時など興奮状態になった時には体内でホルモンであるアドレナリンを分泌し、エネルギーとなるコレステロールや脂肪酸などを合成できるようになりました。

広い視野と発達した脳による個体間コミュニケーションは獲物を探すときにも追いかける時にもとても有利だったと思います。体温上昇抑制と脂肪のサブバッテリー効果で数日間続けて獲物を追いかけ続け狩りをすることもあったようです。木々が点在し、燦々と太陽が照らす広大なサバンナのような平原環境に、まさに適応進化してきたのです。


ヒト固有の能力が疾患の原因に

しかし、現代社会(特に先進国)の生活環境は当時のものとは全くかけ離れたものになっています。日々の糧を狩猟採取生活から得ているヒトはほぼいません。食べ物を探すために長時間移動することもなくほぼ同じ場所で一日を過ごし、手を伸ばせば糖質を多く含む飲食物が常に身の回りにあるので飢餓に備える必要もありません。結果として、生存競争の為に進化した能力は現代生活にマッチしておらず、不調や疾患の原因になっています。代表的なものが「腰痛」と「生活習慣病」です。二足歩行の骨格は長時間同じ場所に立つ/座ることを想定していないので腰痛の原因に、また脂肪蓄積能力は生活習慣病である高コレステロール血症の原因となっています。

ヒトが進化した当初の生活環境に戻ることは、現実的に考えて不可能です。その生活をするために捨て去るべきものがあまりにも多すぎます。しかしながら、我々が生活する上で選ぶことができる行動の選択肢は、たくさんあります。そのヒントを一緒に探し、自分にあった行動を選択し日々過ごすことが、大きな健康の第一歩になると、私は確信しています。

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