進化医学

文明の進歩と腸内環境の変遷

約1万2000年前に、我々の祖先ははじめて麦の栽培に成功した。

ヒト(=ホモ・サピエンス)の歴史は500万年前に始まったと言われており、

全体の長さから見るととても短い間に、我々の生活は劇的に変化したのだ。

ヒトの最初の祖先がチンパンジーと枝分かれ進化したのが約500万年前。
当初は現在のサバンナのような土地で狩猟採取生活を送っていたと考えられています。食事内容は狩猟採取の結果によって毎日様変わりし、バリエーションに富んでいました。狩猟よりも採取の方が比率としては高く、エネルギーの半分以上は炭水化物だったと言われています。

その後、1万2000年の間に文明の進歩から我々の生活環境は大きく様変わりしました。

その中でも特に大きく変わったのが食事であり、麦の栽培をきっかけに農耕が発達し、次に脱穀や粉砕など食品加工技術、そして加工した食料を保存するための保存技術が進歩してきました。我々の食事内容もより栽培しやすく、加工しやすい農産物に限定されていき、かつそれを高度に加工した、長期保存のために殺菌されたものに置き換わっていきます。
精製/加工されたものは消化・吸収されやすく、一見カラダに優しく良いことのように思えますが、腸内細菌にとっては腸で吸収されなかった食事の残渣(残りかす)が餌なので、腸内細菌の主な生息場所である大腸まで餌が届くことなく小腸で食事が吸収されてしまう為、生きることが出来ず数を減らしていく形となってしまいます。

我々の身体は、食事から生きるためのすべての栄養を得られているわけではなく、腸内細菌の活動からもビタミン、ミネラル、微量元素、酵素などを得ています。ヒトに住む腸内細菌の種類や数は現代の科学でも今だ把握しきれておらず、新しい役割や働きも日々発見されています。


食生活による腸内環境への影響について調べた、面白い文献があります。

現代でも伝統的な狩猟採取生活を送っているタンザニアのHadza族と現代人(イタリア人)との腸内環境の違いを実際に調べたのですが、結果としては、Hadza族の腸内の方がはるかに多くの種類の菌が棲んでいました。

Hadza族の食べ物の内容は95%以上が狩猟採取したもので構成され、栽培した農産物由来の食べ物は数%程度でした。その日ごとに食べる食事のバリエーションは、加工食品・栽培農産物を毎日食べている先進国住民とくらべものにならないくらいバリエーション豊かです。また、食物繊維は1日に100g以上摂るとも言われています。一日に摂取する総カロリーは、先進国のものとあまり差がないことも知られています。

Hadza族には、先進国でみられるいわゆる文明病(心臓病、肥満、高血圧)がとても少ないのが知られています。しかしながら、グローバリゼーションの流れで狩猟採取生活をやめ、現代人と同じように店で加工食品を購入し食べる生活になった民族も多くいるようで、そういった生活に変わった集団では先進国同様、文明病に罹患する割合が増えるようです。


我々現代人がすでに失ってしまった腸内の菌達の中にも、とても重要な役割を持ったものがいたのかもしれません。腸内細菌は一度姿を消してしまうと、二度と出てくることはありません。自分たちの未来の子供の為にも、少しでも腸内細菌の数や種類が減らないようにできることをやっていく必要があると考えます。

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